QGIS(Quantum GIS)の解説
QGISとは
QGISは、オープンソースの地理情報システム(GIS)ソフトウェアです。様々なベクターおよびラスター形式の地理空間データの閲覧、編集、分析機能を提供します。商用GISソフトウェアの代替として広く使用されており、Windows、macOS、Linux、Androidなど複数のプラットフォームで利用可能です。QGISは無料で利用でき、活発なコミュニティによって継続的に開発・改善されています。
QGISの主な特徴
- オープンソース: GNU General Public License(GPL)の下で提供され、無料で利用可能
- クロスプラットフォーム: Windows、macOS、Linux、Androidなど複数のOSで動作
- 多様なデータ形式のサポート: Shapefile、GeoJSON、KML、GeoTIFFなど多くの地理空間データ形式に対応
- データベース連携: PostGIS、SpatiaLite、Oracle Spatial、MS SQLなどの空間データベースと連携可能
- 拡張性: プラグインシステムによる機能拡張が容易
- Python統合: Pythonスクリプトによる自動化や高度な分析が可能
- 多言語対応: 日本語を含む多くの言語に対応
- OGC標準対応: WMS、WFS、WCSなどの標準プロトコルをサポート
QGISのインターフェース
QGISのインターフェースは以下の主要な要素で構成されています:
- メニューバー: すべての機能にアクセスするためのドロップダウンメニュー
- ツールバー: よく使う機能にすばやくアクセスするためのアイコン
- レイヤーパネル: プロジェクト内のすべてのレイヤーを管理
- ブラウザパネル: ファイルシステムやデータベースを参照
- マップキャンバス: 地図データを表示・操作する主要領域
- ステータスバー: 座標、縮尺、投影法などの情報を表示
- プロセッシングツールボックス: 空間処理アルゴリズムにアクセス
QGISのカスタマイズ
QGISのインターフェースは高度にカスタマイズ可能です。ツールバーやパネルの表示/非表示、配置変更、ショートカットキーの設定など、ユーザーの好みに合わせた作業環境を構築できます。また、「設定」メニューから様々な動作設定を変更することも可能です。
QGISの基本操作
プロジェクトの作成と保存
QGISでは、すべての作業はプロジェクトとして管理されます。プロジェクトには、レイヤー、スタイル設定、座標系などの情報が含まれます。
プロジェクトの基本操作
- 新規プロジェクト作成: 「プロジェクト」→「新規」
- プロジェクト保存: 「プロジェクト」→「保存」または「名前を付けて保存」
- プロジェクトを開く: 「プロジェクト」→「開く」
- プロジェクトプロパティの設定: 「プロジェクト」→「プロパティ」
データの読み込み
QGISでは様々な方法でデータを読み込むことができます:
- データソースマネージャ: 「レイヤー」→「データソースマネージャ」から様々な形式のデータを追加
- ブラウザパネル: ファイルやデータベースを参照してドラッグ&ドロップ
- クイックアクセスツールバー: ベクターレイヤー追加、ラスターレイヤー追加などのボタン
Shapefileの読み込み
- 「レイヤー」→「データソースマネージャ」を選択
- 「ベクター」タブを選択
- 「ソース種類」で「ファイル」を選択
- 「参照」ボタンをクリックしてShapefileを選択
- 「追加」ボタンをクリックしてレイヤーを読み込む
レイヤーの操作
レイヤーはQGISの基本的な構成要素です。レイヤーパネルでは以下の操作が可能です:
- レイヤーの表示/非表示の切り替え
- レイヤーの順序変更(ドラッグ&ドロップ)
- レイヤーのスタイル設定(右クリック→「プロパティ」→「シンボロジー」)
- レイヤーのフィルタリング(右クリック→「フィルター」)
- レイヤーのエクスポート(右クリック→「エクスポート」)
地図のナビゲーション
マップキャンバス上での基本的なナビゲーション操作:
- 拡大/縮小: マウスホイール、拡大/縮小ツール、または縮尺バー
- パン(移動): スペースキーを押しながらドラッグ、または手のひらツール
- 全体表示: ツールバーの「全体表示」ボタン
- レイヤー範囲に拡大: レイヤーを右クリック→「レイヤー範囲に拡大」
- 選択した地物に拡大: 選択ツールで地物を選択後、右クリック→「選択した地物に拡大」
QGISでのデータ編集
ベクターデータの編集
QGISでは、ポイント、ライン、ポリゴンなどのベクターデータを作成・編集できます:
- 編集したいレイヤーを選択
- 「レイヤー」→「編集モード切替」を選択(または鉛筆アイコンをクリック)
- 編集ツール(地物追加、ノード編集など)を使用してデータを編集
- 編集完了後、再度「編集モード切替」をクリックして変更を保存
新規ポイントの追加
- ポイントレイヤーを選択して編集モードに切り替え
- 「地物追加」ツールを選択
- マップキャンバス上でクリックしてポイントを配置
- 属性情報を入力するダイアログが表示されるので、必要な情報を入力
- 「OK」をクリックして確定
- 編集モードを終了して変更を保存
属性テーブルの編集
地物の属性情報は属性テーブルで管理・編集できます:
- レイヤーを右クリック→「属性テーブルを開く」
- 編集モードに切り替え(鉛筆アイコンをクリック)
- セルをクリックして値を編集
- 新しいフィールド(列)の追加: 「フィールド計算機」ボタンをクリック
- 編集完了後、編集モードを終了して変更を保存
ジオメトリの編集ツール
QGISには様々なジオメトリ編集ツールが用意されています:
- 頂点ツール: ポリゴンやラインの頂点(ノード)を編集
- 地物分割: ラインやポリゴンを分割
- 地物結合: 複数の地物を1つに結合
- リング追加: ポリゴン内に穴(リング)を作成
- 地物一部削除: ポリゴンの一部を削除
- 地物整形: 既存の地物を使って別の地物を整形
QGISでの空間分析
プロセッシングツールボックス
QGISのプロセッシングツールボックスには、数百の空間分析アルゴリズムが用意されています:
- 「プロセッシング」→「ツールボックス」でアクセス
- アルゴリズムはカテゴリ別に整理されている
- 検索機能で必要なアルゴリズムをすばやく見つけられる
- QGIS独自のアルゴリズムに加え、GRASS GIS、SAGA GISなどの外部ツールも統合されている
基本的な空間分析
QGISで実行できる代表的な空間分析:
- バッファ: 地物から指定した距離の範囲を作成
- 交差: 2つのレイヤーが重なる部分を抽出
- ディゾルブ: 共通の属性を持つ隣接ポリゴンを結合
- クリップ: あるレイヤーを別のレイヤーの範囲で切り取り
- 最近接: 最も近い地物を特定
- 空間結合: 空間的な関係に基づいて属性を結合
バッファ分析の実行
- 「プロセッシング」→「ツールボックス」を開く
- 検索ボックスに「バッファ」と入力
- 「バッファ」アルゴリズムをダブルクリック
- 入力レイヤー、距離などのパラメータを設定
- 「実行」ボタンをクリックして処理を実行
- 結果が新しいレイヤーとして追加される
モデルビルダー
複数の処理ステップを組み合わせたワークフローを作成できるツールです:
- 「プロセッシング」→「グラフィカルモデラー」でアクセス
- 複雑な分析を再利用可能なモデルとして保存
- パラメータを設定して様々なデータセットに適用可能
- モデルは他のユーザーと共有することも可能
QGISでの地図作成
レイヤースタイリング
QGISでは、レイヤーの視覚的な表現を詳細にカスタマイズできます:
- レイヤーを右クリック→「プロパティ」→「シンボロジー」
- 単一シンボル、分類、段階、ルールベースなど様々なレンダリング方法
- 色、透明度、シンボルサイズ、ラベルなどの設定
- データ定義による動的なスタイリング
人口データの段階的スタイリング
- 人口データを含むポリゴンレイヤーを右クリック→「プロパティ」→「シンボロジー」
- レンダラータイプを「段階に分けられた」に変更
- 値フィールドで「人口」を選択
- 分類方法(等間隔、等量、自然階級など)を選択
- クラス数を設定(例:5)
- 色の範囲を選択(例:白から赤へのグラデーション)
- 「分類」ボタンをクリックして階級を生成
- 「OK」をクリックして適用
ラベリング
地物にラベルを表示するための設定:
- レイヤーを右クリック→「プロパティ」→「ラベル」
- 「単一のラベル」を選択し、ラベルに使用するフィールドを指定
- テキストの書式、配置、バッファ、背景などを設定
- ルールベースのラベリングで条件に応じたラベル表示も可能
印刷レイアウト
QGISの印刷レイアウトは、プロフェッショナルな地図を作成するための強力なツールです:
- 「プロジェクト」→「新規印刷レイアウト」を選択
- レイアウト名を入力して「OK」
- 「アイテム追加」ツールを使用して、地図、凡例、縮尺記号、方位記号、テキスト、画像などを配置
- 各アイテムのプロパティを設定(右側のパネル)
- 「レイアウト」→「PDFとしてエクスポート」などで出力
アトラス機能
アトラスは、同じレイアウトテンプレートを使用して複数の地図を自動生成する機能です。例えば、各都道府県ごとの地図や、各調査地点ごとの詳細図などを効率的に作成できます。印刷レイアウトの「アトラス」パネルで設定します。
QGISの拡張機能
プラグイン
QGISの機能はプラグインによって拡張できます:
- 「プラグイン」→「プラグインの管理とインストール」でアクセス
- 公式リポジトリから数百のプラグインを検索・インストール可能
- コアプラグイン(標準搭載)と外部プラグイン(コミュニティ開発)がある
人気のあるプラグイン
- QuickMapServices: OpenStreetMap、Google Maps、Bingなどのベースマップを簡単に追加
- MMQGIS: 地理データの作成、変換、分析のための追加ツール
- Processing R Provider: R言語のスクリプトをQGIS内で実行
- qgis2web: QGISプロジェクトをインタラクティブなウェブマップとしてエクスポート
- QuickOSM: OpenStreetMapデータを簡単にダウンロード・クエリ
Python連携
QGISはPythonと深く統合されており、様々な方法でPythonを活用できます:
- Pythonコンソール: 「プラグイン」→「Pythonコンソール」でアクセス
- カスタムスクリプト: プロセッシングツールボックスでPythonスクリプトを作成・実行
- カスタムプラグイン: Pythonを使用して独自のプラグインを開発
- PyQGIS API: QGISの機能にプログラムからアクセスするためのPython API
簡単なPythonスクリプトの例
# 現在のプロジェクト内のすべてのレイヤーを表示
from qgis.core import QgsProject
layers = QgsProject.instance().mapLayers().values()
for layer in layers:
print(f"レイヤー名: {layer.name()}, タイプ: {layer.type()}")
# 選択した地物の属性を表示
layer = iface.activeLayer()
features = layer.selectedFeatures()
for feature in features:
attrs = feature.attributes()
print(attrs)
QGISの応用例
都市計画・国土計画
- 土地利用分析
- 都市施設の配置計画
- 交通ネットワーク分析
- 景観シミュレーション
防災・減災
- ハザードマップの作成
- 避難経路の分析
- 災害リスク評価
- 被害予測シミュレーション
環境保全・生態学
- 生息地適合性分析
- 環境変化のモニタリング
- 汚染拡散シミュレーション
- 生物多様性マッピング
ビジネス・マーケティング
- 商圏分析
- 出店計画
- 配送ルート最適化
- 顧客分布分析
QGISの学習リソース
公式ドキュメント
コミュニティリソース
日本語の学習リソース
- QGIS日本ユーザー会
- 各自治体や大学が公開しているQGISチュートリアル
- 書籍:「QGISの基本と防災活用」「QGISではじめる地理情報システム」など
QGISのバージョンと更新
QGISは定期的に更新されており、以下のリリースサイクルで提供されています:
- 長期リリース(LTR): 1年間のサポート期間を持つ安定版
- 通常リリース: 4ヶ月ごとにリリースされる最新機能を含むバージョン
本番環境では安定性を重視するLTRバージョンが推奨されますが、最新機能を試したい場合は通常リリースを使用することもできます。
まとめ
QGISは、地理空間データの閲覧、編集、分析、可視化のための強力なオープンソースGISソフトウェアです。商用GISソフトウェアに匹敵する機能を無料で提供し、プラグインシステムやPython連携による高い拡張性を持っています。
QGISの主な利点:
- 無料で利用できるオープンソースソフトウェア
- 多様なデータ形式と空間データベースのサポート
- 豊富な空間分析ツールと高品質な地図作成機能
- プラグインによる機能拡張とPythonによるカスタマイズ
- クロスプラットフォーム対応と多言語サポート
- 活発なコミュニティと充実したドキュメント
初心者からGIS専門家まで、様々なレベルのユーザーがQGISを活用して地理空間データの処理や分析を行っています。都市計画、環境保全、防災、ビジネス分析など、多様な分野での応用が可能です。無料で利用できる高機能GISソフトウェアとして、QGISは地理空間情報の民主化に大きく貢献しています。